新型コロナウイルス感染症とメンタルヘルス

2022.08.08 産業保健

 コロナ禍で心身に不調をきたしてしまう方が増えているのはご存じでしょうか?精神保健福祉センターによれば、とくに40〜50代のメンタル不調相談が激増したという報告があります。
 今回は、withコロナ時代にどのようなメンタル不調の問題があるのかと、企業のとれる対策についてご紹介します。

 

メンタル不調を感じるのは自然なこと

 新型コロナウイルスの蔓延によって、三密の回避・リモートワークの実施など、生活の変化を余儀なくされてきました。誰にとっても、環境の変化は大きなストレス要因です。実際、どれほどの人がメンタル不調を抱えているのでしょうか。

 コロナ禍になり、精神面がどう変化したかの調査結果があります。
 中国で約5万6,000人を対象にした調査によると、抑うつ症状(27.9%)、不安症状(31.6 %)、不眠(29.2%)、急性ストレス反応(24.4%)と、かなりの割合でメンタルの不調を感じていることがわかりました。
 スペインの調査では、男性52.5%、女性71.8%が心理的ストレスを抱えていたそうです。
 厚生労働省の調査では、31.1%の方が「落ち着かない気分になった」、19.1%の方が「気分が落ち込んだ」と回答しています。

 

コロナ禍のメンタル不調の原因とは

 コロナ禍になり、多くの人がメンタル不調をきたしました。人によって、その原因はさまざまです。

<対人コミュニケーションの減少>

 リモートワークになることで、人との直接的な対面コミュニケーションが減少し、ストレスを感じることがあります。とくに、ちょっとした「雑談」がなくなることは、思った以上のストレスとなることが多いようです。
 リモートワークでも、web会議などで「人と会話する」機会はありますが、従来の対面コミュニケーションとは感じ方が異なります。目線が合わないこと、背後の音が入り込むなど「非現実感」があることなどが原因かもしれません。また、チャットでは思ったように意図が伝わらずにイライラしてしまうという声もありました。

<家庭内の変化>

 これまで、日本では仕事とプライベートの空間を分ける「職住分離」が主流でした。コロナ禍のリモートワークにより、プライベート空間に仕事が入り込んできたわけです。
 「家族との時間が増えた」ことを良いと捉える方ももちろん多いですが、「1人になれる時間がない」「(幼稚園などに子どもを預けられず)1日中子どもの相手をしているのが辛い」「家族のメンタル不調に引きずられて調子が悪い」といった声も。
 人それぞれ、快適と感じる人との距離の取り方があります。その距離感が崩れ、不調をきたしてしまうのです。

<運動量の減少>

 厚生労働省の調査で、39.1%もの方で運動量が低下していることがわかりました。また、コロナ禍の初期におこなわれた日本の調査でも、39.6%の方が「自宅に長くいることによる運動不足」にストレスを感じると回答しています。
 運動はストレス発散方法の1つです。ジムに通ったりランニングをしたり、といった習慣的な運動ができなくなり不眠や抑うつを生じるのは、ごく自然なことといえます。

 

解決法を求めている人が増えている

 「勤労者こころのメール相談」に相談を寄せる人の数は、コロナ禍の前より1.5〜2倍程度まで増えています。「産業医との面談」が約1.5倍に増えたという報告もありました。
 しかし、コロナ禍で自殺やうつが増えていることを考えれば、まだまだ十分にメンタルケアが行き届いているとはいえません。

 

企業として対策できることは?

 従業員の不調に対して、企業として対策できることには何があるでしょうか?
 労働者が50人以上の事業場では、産業医の選任やストレスチェックテストの実施が義務付けられています。しかしながら、ストレスチェックテストや、産業医面談を活用してもらいたいと思っても、なかなか利用者が増えない…。その原因として、「ストレスチェックテストの結果で社内の評価が下がるかも」「産業医と話した内容を会社に報告されてしまうのでは?」といった不安が挙げられます。
 多くの方にとって、「産業医」はなじみの薄いもの。まずは、ストレスチェックテストの位置づけや産業医について周知することが大切です。

  • ストレスチェックテストは、自分のメンタル不調に気が付くためのテストである
  • ストレスチェックテストの結果は、産業医と企業の一部の人しか確認できない
  • 産業医との面談内容は、本人の許可なく会社側に漏れることはない
  • 会社への報告を行う場合でも、最低限の内容しか伝えられることはない
  • 本人へのアドバイスだけでなく、問題解決のため会社側へ働きかけることもある
  • メンタルの問題だけでなく、健康診断の結果についての相談もできる

こうした事実が知られるだけでも、安心してストレスチェックテストや産業医・保健師面談を受けられるようになるかもしれません。

 

産業医をより身近に

 更なる取り組みの例として、産業医の協力のもと「熱中症について」「腰痛予防教室」のような、身近なテーマでのセミナーを開催したり、健康に関するメールマガジンを配信するといったことも考えられます。ストレスチェックテストの結果から、簡単にできるストレス対処法を紹介するのもよいでしょう。こういった活動から産業医を身近に感じてもらい、ささいな健康相談から心身の不調まで、気軽に相談できる環境づくりをすることが効果的です。

 

まとめ

 コロナ禍では、人と人とのコミュニケーションが減少したこと、運動不足になったことなど、さまざまな理由からメンタル不調となる方が増えました。ストレスチェックテストや産業医・保健師面談をうまく活用できれば、従業員が自身の不調に気がつくきっかけとなります。
 東京桜十字の産業保健サービスでは、こちらで紹介した様々な取組みのサポートが可能ですので、お気軽にお問い合せください。

参考
・Tomohiro Nakao et al. Mental Health Difficulties and Countermeasures during the Conronavirus Disease Pandemic in Japan: A Nationwide Questionnaire Survey of Mental Health and Psychiatric Institutions. Int. J. Environ. Res. Public Health 2021, 18, 7318.
・佐々木 那津 他. 新型コロナウイルス感染症流行と労働者の精神健康:総説. 産業医学レビュー Vol.34 No.1 2021.
・厚生労働省. 新型コロナウイルス感染症に係るメンタルヘルスに関する調査 インターネット調査報告書(令和3年3月)
・橋元 良明. 新型コロナ禍中の人々の不安・ストレスと抑鬱・孤独感の変化. 情報通信学会誌
・独立行政法人労働者健康安全機構. 産業保健21. 2021.7 第105号
・Nobuyuki Horita et al. Trands in Suicide in Japan Following the 2019 Coronavirus Pandemic. JAMA Netw Open. 2022 Mar; 5(3): e224739.