会社に健康診断がない場合の対処法と知っておくべきこと

会社が健康診断を実施していない場合、それは法律違反にあたります。会社の規模に関係なく、事業者には従業員に健康診断を受けさせる義務があります。従業員が不利益を受ける必要はなく、匿名で相談できる窓口も用意されています。
「うちの会社、健康診断がないんだけど…」そんな不安を抱えている方へ。この記事では、会社に健康診断がない場合に従業員が取るべき行動、相談できる窓口、そして中小企業が直面する課題と解決策について、具体的に解説します。
あなたの会社は違法?健康診断の法的義務
会社の健康診断実施義務は絶対
労働安全衛生法第66条には、次のように明記されています1)。
「事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行なわなければならない」
ここでいう事業者とは会社、労働者とは従業員を指します。つまり、会社には健康診断を実施する法的義務があり、これは会社の規模に関係なく適用されます。
従業員が1人でも、100人でも、この義務に変わりはありません。「小さな会社だから」「創業間もないから」という理由は、法律上認められていないのです。
会社が実施すべき健康診断の種類
一般健康診断は全従業員を対象とした基本的な健康診断で、入社時や年1回の定期健康診断がこれにあたります。血圧測定、尿検査、胸部レントゲン検査、血液検査などが含まれ、35歳未満や36歳以上40歳未満の者については、医師の判断で省略できる項目もあります。
特殊健康診断は、有害業務に従事する従業員を対象とした健康診断です。例えば、有機溶剤を扱う業務、粉じん作業、放射線業務などに従事する場合には、年2回以上の特殊健康診断が義務付けられています。
従業員にも受診義務がある
会社に実施義務があるのと同様に、従業員にも会社の健康診断を受診する義務があります。会社が従業員の健康管理を遂行するために、従業員側もその取組みに協力をしなければならないのです。
もしも会社が指定する医療機関ではなく、他の医療機関を受診する場合も、その結果を会社へ報告をしなければなりません。これは「自己保健義務」と呼ばれ、会社の従業員は自身の健康を管理することが求められます。
受診時間と費用は会社負担が原則
費用については、法定の健康診断は会社が全額負担するのが原則です。従業員に費用負担を求めることは、労働安全衛生法の趣旨に反するとされています。
一般健康診断の受診時間は、法律上は労働時間として扱う義務はなく、賃金の支払いについては労使間の協議によって定めるべきものとされています。ただし、厚生労働省は「円滑な受診を考えれば、受診に要した時間の賃金を事業
なお、特殊健康診断については、業務遂行に直接関連するため、受診時間は労働時間となり、賃金の支払いが必要です。
従業員側の対処法:すぐできる3つのアクション
会社に健康診断がないことに気づいたら、以下の3つのステップで対処しましょう。
ステップ1:会社への確認と申し入れ
まずは、本当に健康診断制度がないのかを確認します。総務部門や人事担当者に「健康診断の予定はありますか」と尋ねてみましょう。単に案内が届いていないだけ、という可能性もあります。
制度自体がない場合は、「法律で義務付けられているので、実施してほしい」と申し入れることができます。この時点では、できるだけ穏やかに、事実確認のトーンで話すことをおすすめします。
ステップ2:外部窓口への相談
会社への申し入れで改善されない場合、または申し入れ自体が難しい場合は、外部の相談窓口を活用しましょう。匿名での相談も可能ですので、報復を恐れる必要はありません。
詳しい相談窓口については、次のセクションで解説します。
ステップ3:自主的な受診の検討
会社の対応を待つ間も、自分の健康は守る必要があります。以下の方法で自主的に健康診断を受けることができます。
健康保険組合の健診サービス:協会けんぽや各種健康保険組合では、被保険者向けの健診を提供しています。会社が費用負担していない場合でも、個人で利用可能です。
市区町村の住民健診:自治体が実施する住民健診も活用できます。
人間ドック:より詳細な検査を希望する場合は、自費で人間ドックを受診する選択肢もあります。
ただし、本来は会社が負担すべき費用を自己負担することになるため、並行して会社への改善要請や外部への相談を進めることが重要です。
どこに相談すればいい?匿名相談も可能な窓口一覧
会社に健康診断がない場合、以下の窓口に相談できます。いずれも匿名での相談が可能ですので、安心して利用してください。
労働基準監督署【最も確実な相談先】
労働基準監督署は、労働基準法や労働安全衛生法の遵守を監督する行政機関です。会社が健康診断を実施しない場合の最も確実な相談先といえます。
相談できる内容:
- 会社が健康診断を実施していない
- 受診を妨害されている
- 費用を自己負担させられている
メリット:
- 匿名での相談が可能
- 必要に応じて会社への指導や調査を実施
- 法的拘束力のある対応が期待できる
全国の労働基準監督署の所在地は、厚生労働省のウェブサイトで確認できます。電話相談も受け付けています。
地域産業保健センター【50人未満の小規模事業場向け】
50人未満の小規模事業場を対象に、産業保健サービスを無料で提供している機関です。
相談できる内容:
- 健康診断の実施方法
- 結果の見方
- 事後措置について
メリット:
- 産業医や保健師に専門的なアドバイスを受けられる
- 従業員側からも「会社に健康診断がないが、どうすればよいか」という相談が可能
- 無料で利用できる
加入している健康保険組合
協会けんぽや各種健康保険組合では、被保険者向けの健診サービスを提供しています。
活用方法:
- 自分が加入している健康保険組合に問い合わせ
- 利用できる健診サービスを確認
- 会社が実施していない場合でも、個人で利用可能
特に協会けんぽの生活習慣病予防健診は、事業主が費用の一部を補助してもらえる制度もあり4)、中小企業にとって利用しやすい選択肢です。会社にこの制度の活用を提案することもできます。
その他の相談窓口
商工会議所・商工会:
地域の商工会議所や商工会では、会員企業向けに労務管理の相談サービスを提供していることがあります。健康診断の実施方法や医療機関の紹介、助成金の活用方法などについて情報提供を受けられます。
社会保険労務士:
労働法規や社会保険の専門家である社会保険労務士に相談することも有効です。健康診断の実施体制の構築、就業規則への記載方法、健診結果に基づく労務管理など、包括的なアドバイスを受けられます。費用はかかりますが、専門的かつ実践的な支援を得ることができます。
会社側の方へ:中小企業でも実施できる具体的ステップ
「健康診断が法的義務だと知らなかった」「どう始めればいいかわからない」という経営者や総務担当者の方へ、実施のための具体的なステップを紹介します。
なぜ実施していない会社があるのか
会社が健康診断を実施しない背景には、いくつかの理由があります。
法律の知識不足が最も多い理由です。特に初めて従業員を雇用した経営者の中には、健康診断の実施が法的義務であることを知らない方もいます。
コスト意識も無視できません。健康診断には一人あたり数千円から1万円程度の費用がかかり、従業員が多ければ相応の支出となります。特に経営が厳しい会社では、目の前の売上確保が優先され、健康診断は「余裕ができたら」と先送りされてしまいます。
手続きの煩雑さを敬遠する経営者もいます。健診機関との契約、従業員への案内、受診日程の調整、結果の管理など、一連の業務を誰がどのように進めるのか明確でなく、着手できずにいるケースもあります。
実施のための5ステップ
ステップ1:従業員の把握と計画立案
まず、従業員の人数と受診時期を確認し、健康診断の計画を立てます。全従業員が同時期に受診する必要はなく、入社月や誕生月に合わせて分散して実施することも可能です。
ステップ2:健診機関の選定
地域の医師会や商工会議所に相談すると、中小企業向けの健診サービスを紹介してもらえることがあります。また、全国健康保険協会(協会けんぽ)の生活習慣病予防健診を利用すると、費用の一部補助を受けられる場合もあります5)。
ステップ3:への案内
受診の案内を明確に伝え、日程調整を行います。受診は義務であることも併せて周知します。
ステップ4:健診の実施
計画に基づいて健診を実施します。受診時間を勤務時間として扱うか、賃金をどうするかは事前に決めておきましょう。
ステップ5:結果管理と事後措置
健診実施後は、結果を適切に管理し、必要に応じて就業上の措置を講じます。産業医の選任義務がない50人未満の事業場でも、地域産業保健センターを通じて産業医の助言を無料で受けることができます。
健康診断がない会社の特徴
実際に健康診断を実施していない会社には、いくつかの共通点があります。
創業間もないスタートアップ企業では、ビジネスの立ち上げに追われ、労務管理の整備が後回しになっているケースがあります。創業メンバーが少数のうちは「自分たちで何とかする」という意識が強く、法定の健康診断まで手が回らないことがあります。
家族経営の小規模事業者では、従業員と経営者の距離が近いがゆえに、形式的な手続きが軽視されがちです。「みんな元気だから大丈夫」という認識で、健康診断の必要性が理解されていないこともあります。
人手不足の中小企業では、総務や人事担当者が他の業務と兼任しており、健康診断の手配まで手が回らないという状況も見られます。
健康診断を受けないリスク
健康診断を受けない、または受けさせない場合には、会社にも従業員にも重大なリスクが生じます。
会社側のリスク
会社側が従業員へ健康診断を適切に受けさせていない場合には、労働基準監督署からの指導対象となる可能性があります。罰則規定もあり、悪質と認められた場合には刑事罰が科せられるリスクがあります。具体的には、50万円以下の罰金が科される可能性があります5)。
さらに深刻なのは、民事訴訟のリスクです。健康診断を受けさせていないことにより病気の発見が遅れ、さらに必要な就業制限措置も行われないままに従業員が死亡してしまった場合、労働安全衛生法違反に加え会社側の安全配慮義務違反として、民事訴訟による損害賠償請求に発展する可能性があるのです。
従業員側のリスク
従業員側が健康診断の受診を頑なに拒否し続ける場合には、会社の安全管理を妨害しているとして、懲戒処分対象とされるリスクがあります。
また、健康面でのリスクも無視できません。健康診断の目的の一つに病気の早期発見と重症化予防があるので、健康診断を受けないことは、そのまま病気の発見を遅らせることに繋がります。病気によってはほとんど自覚症状が出ないまま病状が進行していき、いざ病気が発見された時には取返しがつかない状態ということも珍しくありません。
会社の健康診断の目的
一般的に、健康診断の目的は病気を早期に発見することと言われます。がんや生活習慣病は早期の自覚症状が出にくい病気ですので、数値や画像で客観的に身体の状態を判断することは重症化予防に効果的です。
一方で、会社の健康診断では上記の理由に加えて、従業員が働くうえでの健康を守ることに主眼が置かれています。労働者保護のための法律である「労働安全衛生法」に基づき、もしも健康診断の結果で異常が認められれば、会社は医師の助言のもと労働時間や作業内容の変更など必要に応じた対応をとらなければなりません。
健康は、失って初めてその「ありがたさ」に気づくものです。
そうならないためにも、健康状態を維持・向上させるための定期的な健康チェックは欠かせません。その意味で、「健康診断は “受診する義務” であると同時に、“健康を守るために認められた権利” でもある」とも言えます。
日本には国民皆保険制度があり、ゆりかごから墓場まで、人生の節目ごとに健康チェックを受けられる機会が整えられています。
この制度を上手に活用し、人生100年時代を健やかに、そして豊かに過ごしましょう。
―監修者コメント
よくある質問と回答
Q.小さな会社でも健康診断は必要ですか?
A.はい、必要です。従業員が小規模の事業場であっても、健康診断の実施義務は同様に適用されます。会社の規模は関係ありません。
Q.パートやアルバイトも対象ですか?
A.一定の条件を満たす場合は対象となります。一般的に、週の労働時間が正社員の4分の3以上であれば、健康診断の対象となります。
Q.会社に健康診断がないことを匿名で相談できますか?
A.はい、できます。労働基準監督署では匿名での相談を受け付けています。報復を恐れる必要はありません。
Q.自分で健康診断を受けた場合、費用は会社に請求できますか?
A.法定の健康診断は会社が負担すべきものですので、会社が実施していない場合、自己負担分の請求は理論上可能です。ただし、事前に会社へ申し入れを行い、それでも実施されなかった経緯を記録しておくことが重要です。
まとめ
会社の健康診断は、会社と従業員の双方に対して義務づけられており、会社が主体となって実施しなければなりません。これは会社の規模に関わらず、すべての事業場に適用される法的義務です。
会社に健康診断がない場合、それは明確な法律違反です。従業員は不利益を受ける必要はなく、以下の対応を取ることができます。
- まず会社への確認と申し入れを行う
- 労働基準監督署や地域産業保健センターへ相談(匿名可能)
- 健康保険組合や市区町村の健診サービスを活用して自主受診
中小企業や小さな会社の経営者・総務担当者の方は、地域産業保健センター、商工会議所、健康保険組合などの支援を活用することで、負担を軽減しながら適切に実施することが可能です。
会社勤めの方は、今一度、職場の健康診断がどのようなものであったか思い返してみてはいかがでしょうか。年1回(人によっては複数回)の受診機会を有効に活用されることをおすすめします。
もし会社に健康診断制度がないのであれば、それは改善されるべき問題です。従業員の健康を守ることは会社の責任であり、同時に従業員自身も自分の健康を守る権利があります。適切な窓口に相談し、必要な行動を起こすことが大切です。
また、個人事業主やフリーランスの方は、最後に受診した健康診断がいつだったか等を振り返り、年1回を目処に定期的な受診をおすすめします。市区町村の住民健診や健康保険組合の健診サービスなど、利用できる制度を積極的に活用しましょう。
健康は、働き続けるための最も大切な基盤です。会社も従業員も、そして個人事業主も、健康診断を通じて自身の健康状態を定期的に確認し、病気の予防と早期発見に努めることが重要です。
参考文献
3)厚生労働省「健康診断を受けている間の賃金はどうなるのでしょうか?」
4)全国健康保険協会「生活習慣病予防健診等・特定健康診査のご案内」
監修者情報
監修:桜十字グループ予防医療事業本部 VIP専任シニアマネージャー 石﨑竜太郎
執筆:メディカルトリビューン編集部