巡回健診で受診率アップ! 企業が選ぶメリットと実施の流れ

「従業員が多くて医療機関の予約が取れない」「業務が忙しく、健診に行けない職員がいる」「受診率がなかなか上がらない」――企業の健診担当者なら、一度はこうした課題に直面したことがあるのではないでしょうか。
従業員の健康管理は企業の法的義務であり重要な責務です1)。しかし、個別に医療機関を受診させる方式では、受診状況の把握が難しく、未受診者のフォローにも手間がかかります。
そこで注目されているのが「巡回健診」です。医療機関が事業所に出向いて健康診断を実施するこの便利な方式なら、業務への影響を最小限に抑えながら、高い受診率を実現できます。本記事では、巡回健診のメリットから具体的な実施方法、問い合わせ~申し込みの流れまで、企業の健診担当者が知っておくべき情報を詳しく解説します。
巡回健診(バス健診)とは
巡回健診とは、医療機関が健診バス(レントゲン装置搭載車両、循環器健診車両など)や医師、医療スタッフを企業の事業所や指定会場に派遣し、その場で健康診断を実施する便利なサービスです。「バス健診」や「出張健診」とも呼ばれます。
従来の健康診断では、従業員が各自で医療機関に足を運び、受診する必要があります。巡回健診では医療機関側が企業に出向くため、従業員は職場で受診できて便利です。
巡回健診の基本的な仕組み
健診バスには胸部X線撮影装置や胃部X線撮影装置の医療機器が搭載されており、会場として用意された室内スペース(食堂や会議室など)と組み合わせることで、医療機関と同等の検査が可能になります。医師、看護師、臨床検査技師などの専門スタッフが同行し、採血や計測、各種検査を実施します。
多くの企業が定期健康診断や生活習慣病予防健診で巡回健診を活用しており、特に従業員数が多い事業所や工場、周辺に下請け企業やグループ企業など複数の拠点を持つ企業に適しています。
巡回健診のはじまりは、1960年、日本で罹患者が多い胃がんの早期診断のため、宮城県で最初の胃部間接レントゲン車を完成させ胃集団検診を開始したことが最初です。その後、胃集団検診は、市町村を主体とした地域集検に加え、職域集検も行われ、胃がん検診車の巡回による検診が全国的に広まりました。
巡回健診の主なメリットは、従業員が医療機関に出向く必要がなく、移動時間や交通費を節約できる点です。また、受診率が向上しやすく、業務の中断時間も最小限に抑えられます。さらに、法定健診としても対応できるため、法令遵守と従業員の健康維持を同時に実現できる選択肢として注目されています。
―監修者コメント
企業が巡回健診を選ぶ5つのメリット
巡回健診には、企業の健康管理を効率化する多くのメリットがあります。
メリット1:受診率の大幅な向上
最も大きなメリットは、受診率の向上です。従業員が個人で医療機関を予約・受診する場合、業務の都合や予約の取りにくさから受診を先延ばしにするケースが少なくありません。
巡回健診なら職場で受診できるメリットがあり、従業員の心理的ハードルが下がります。企業側も受診状況を一元管理でき、未受診者へのフォローに便利です。巡回健診を導入することにより、受診率の向上が期待できます。
メリット2:業務への影響を最小限に
医療機関での受診では、そこまでの移動時間や検診待ち時間を含めて半日程度かかることもあります。一方、巡回健診の所要時間は1人当たり30〜40分程度で、職場からの移動が不要で業務中断を最小限にすることができるため、業務への影響を大幅に抑えられます。この便利さが、企業にとって大きな魅力です。
短時間で効率的に健診を完了できれば、特に人手不足が深刻な業種や、忙しい従業員が多い職場にとって大きなメリットです。
メリット3:健診予約の手間を削減
従業員数が多い企業では、1人ひとりの健診予約を取ることは担当者にとって大きな負担です。医療機関の予約枠が限られていると、希望日時に予約が取れず、調整に時間がかかります。
巡回健診なら企業と医療機関との間で一括して日程調整を行うため、個別予約の手間が不要です。時間と費用の両面でメリットがあります。50名以上の従業員を1日で健診できるため、大規模な事業所でもスムーズに実施できます。
メリット4:受診状況の一元管理が可能
従業員が各自で医療機関を受診する場合、誰がいつ受診したのか、誰が未受診なのかを把握することは容易ではありません。
巡回健診では企業が主体となって健診を実施するため、受診者リストの作成や受診状況の管理が便利で明解です。未受診者への受診勧奨も計画的に行えます。
メリット5:幅広い検査項目に対応
巡回健診は基本的な法定項目だけでなく、企業のニーズに応じた追加の検査項目にも対応できます。上部消化管X線検査(胃バリウム)、腹部超音波検査(エコー)、婦人科検診(子宮頸部細胞診や乳房検査)など、充実した検査項目から選択可能です。
生活習慣病予防のための血液検査項目の追加も柔軟に対応でき、従業員の年齢層や健康状態に合わせた最適な健診プランを設計できる便利さもあります。
巡回健診で実施できる検査項目
巡回健診では、労働安全衛生法で定められた法定項目に加え、下記に挙げる検査項目から実施することも可能です。
法定項目
労働安全衛生法に基づく定期健康診断の法定項目は以下の通りです2)
定期健康診断の法定項目
- 既往歴および業務歴の調査
- 自覚症状および他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、腹囲、BMI、視力、聴力の検査
- 胸部X線検査
- 血圧測定
- 貧血検査(赤血球数、血色素量)
- 肝機能検査(AST、ALT、γ-GTP)
- 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
- 血糖検査(空腹時血糖またはHbA1c)
- 尿検査(尿中の糖および蛋白の有無)
- 心電図検査
追加可能な主な検査項目
消化器系検査
- 上部消化管X線検査(胃バリウム):胃がんや胃潰瘍などの早期発見に有効
- 腹部超音波検査(エコー):肝臓、胆のう、膵臓、腎臓などの異常を調べる
婦人科検診
- 子宮頸部細胞診:子宮頸がんの早期発見
- 乳腺超音波検査(エコー):乳がんのスクリーニング(若年層に適している)
その他の血液検査
- 腎機能検査(尿酸、クレアチニン、尿素窒素)
- 膵機能検査(血清アミラーゼ)
- 炎症反応検査(CRP)
- 甲状腺機能検査
企業の業種や従業員の年齢構成、健康課題に応じて、検査項目をカスタマイズできます。
巡回健診で実施される項目は、基本的に 労働安全衛生法に基づく定期健康診断の法定項目を中心に構成されているため、法定健診や生活習慣病予防健診を効率的に実施できるメリットがあります。
―監修者コメント
巡回健診の実施の流れ
巡回健診の実施は、以下のステップで進めます。全体の流れを把握しておくことで、スムーズな準備が可能になります。
ステップ1:お問い合わせ
まず、医療機関の問い合わせフォームや電話で連絡します。この段階で以下の情報を伝えます。
医療機関への問い合わせ時に伝えるべき項目
- 受診予定人数
- 希望する実施時期(おおよその時期で構いません)
- 実施希望の検査項目
- 事業所の所在地
申し込み方法
Webサイトのお問い合わせフォームから便利に申し込みができます。
電話での問い合わせも可能
メールでの相談にも対応
医療機関によって対応エリアが決まっているため、事前に確認しましょう。東京桜十字では東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の1都3県に対応しています。
ステップ2:打ち合わせ・現地確認
医療機関の担当者と詳細な打ち合わせを行います。この段階で決定する主な項目は以下の通りです。
打ち合わせ時に決定する項目
- 健診コースの内容と費用
- 具体的な実施日時
- 会場の確認(室内スペース、駐車スペース)
- 女性専用の時間帯設定の有無
- 時間予約制の導入
必要に応じて、現地スタッフによる会場の下見が行われます。健診バスの駐車スペース(大型バス1台分)と、聴力検査などを行う20平方メートル以上の室内スペースが必要です。
会場準備のポイント
- 駐車スペースの確保が難しい場合は、道路使用許可を得て実施することも可能
- 室内スペースは、できる限り静かな場所を選ぶ(聴力検査のため)
- 健診日当日早くから開始できるよう、健診前日の夕方から会場を使用し会場設営(プライバシーに配慮するための健診ブースやパーテーション設置)、機材搬入ができるかを調整
ステップ3:問診票・検査キットの受領
健診実施日の数週間前に、医療機関から以下の書類・資材が届きます。
医療機関から届くもののリスト
- 問診票
- 受診の注意事項
- 尿検査や便検査のキット(該当する場合)
- 受診者リスト(企業側で作成する場合もあります)
問診票は従業員に配布し、健診当日までに記入してもらいます。必ずボールペンで記入するよう周知しましょう。また、事前に健診バスと室内スペースの場所や動線を伝えることで、当日の流れがスムーズになります。
ステップ4:健診当日
健診当日は、医療機関のスタッフと健診バスが指定時刻に到着します。
当日の流れ(受診者側)
- 問診票の提出
- 身体測定(身長、体重、腹囲、視力、聴力)
- 血圧測定
- 採血
- 尿検査
- 心電図検査
- 胸部X線検査(健診バス内)
- 追加検査(胃バリウム、腹部エコー、婦人科検診など)
1人当たりの所要時間は30〜40分程度です。この流れに沿って進めることで、スムーズな受診が可能になります。受診者が多い場合は、時間予約制を導入することで待ち時間を短縮できます。
従業員への事前周知事項
- 食事制限がある場合の詳細(検査項目による)
- 水分摂取は可能(脱水防止と採血のため)
- 着脱しやすい服装の着用(無地のTシャツなど)
- ストッキングやボディスーツは避ける
- 妊娠中の方、生理中の方の受診制限
ステップ5:結果報告
健診終了後、約2〜3週間で結果報告書が届きます。加入している健康保険組合によっては、発送が遅れる場合もあります。
結果報告書は個人ごとに封書で届き、企業の担当者から各従業員に配布します。そのため、個人情報の管理も適切に行われます。再検査や精密検査が必要な従業員には、速やかに医療機関の受診を促すことが大切です。
ステップ6:請求書と企業控えの受領
健診実施月の月末締めで、翌月20日前後に請求書と企業用の結果報告書控えが届きます。
企業控えには全従業員の健診結果がまとめられており、組織全体の健康状態を把握するのに役立ちます。産業医との面談資料としても活用できます。
巡回健診を実施する際の注意点
巡回健診をスムーズに実施するために、以下の点に注意しましょう。
巡回健診実施時期の調整
健診の繁忙期(春と秋)は予約が混み合うため、早めの申し込みが必要です。特に4〜6月、9〜11月は多くの企業が健診を実施する時期であり、希望日に実施できない可能性があります。
可能であれば、繁忙期を避けた7〜8月や12〜3月に実施することで、スムーズに予約できます。
最低受診者数の確認
多くの医療機関では、巡回健診の実施に最低受診者数を設定しています。東京桜十字の場合は50名以上/日が基本ですが、時期や検査項目によっては50名未満でも対応可能な場合があります。
小規模事業所の場合は、複数の日程をまとめるなどの工夫が必要です。
女性従業員への配慮
婦人科検診を実施する場合は、女性が受診しやすい環境を整えることが重要です。
以下のような配慮により、女性従業員の受診率も向上しやすくなります。
女性の健診受診率向上のTips
- 女性専用の時間帯や日程を設ける
- 女性スタッフによる検査体制を確認
- プライバシーが保たれる検査スペースの確保
受診できない方への対応
以下のような方は、一部の検査を受診できません。
該当する従業員には、別日程での受診や、受診可能な検査項目のみの実施など、柔軟に対応しましょう。
一部の検査を受診できない方
- 妊娠中の方:X線検査(胸部・胃部・マンモグラフィ)、子宮頸がん検査
- 生理中の方:子宮頸がん検査
食事制限と水分摂取
検査項目によっては食事制限が必要です。特に血糖値や中性脂肪を調べる場合は、前日夜から絶食が求められることがあります。
ただし、水分摂取は制限されません。むしろ、脱水を防ぎスムーズな採血を行うためにも、適度な水分摂取を推奨しましょう。
巡回健診を企業で実施する場合には、いくつか確認事項が発生します。
・実施する検査項目が労働安全衛生法に準拠しているか
・検査項目、料金、追加費用、キャンセルポリシーなどを事前に取り決める
・健診車の駐車場や、検査機器設置場所(搬入間口やエレベーター利用など)を事前に確保する
・業務ピークを避けた日程、部署ごとの受診時間割を調整
・受診対象者への周知徹底、リマインドメールや掲示版等で未受診防止対策
・当日未受診者や、未受診項目のフォローについて事前に決める
・巡回健診後の精密検査や再検査の流れを事前に決める
・委託医療機関が、個人情報保護法に準拠しているか契約書に記載
・天候や災害時の対応ルールを契約書に記載
これらを委託先の医療機関と取り決めをしましょう。
―監修者コメント
よくある質問
Q1. 巡回健診の費用はどのくらいですか?
巡回健診の費用は検査項目や受診人数によって異なります。基本的な法定項目のみの場合と、胃バリウムや腹部エコーなどを追加した場合では料金が変わります。詳細は医療機関に見積もりを依頼しましょう。
Q2. 雨天時でも実施できますか?
基本的に雨天でも実施可能です。健診バス内での検査は問題なく行えます。ただし、台風などの悪天候の場合は、安全面を考慮して延期になることがあります。
Q3. 健診結果で再検査が必要な従業員が出た場合は?
巡回健診を実施した医療機関で、二次検査や精密検査を受けられる場合もあります。東京桜十字のように、都内各所にクリニックを展開している医療機関なら、従業員が通いやすい拠点で継続的なフォローが可能です。
Q4. 派遣社員やパート従業員も受診できますか?
可能です。労働安全衛生法では、雇用形態に関わらず一定の条件を満たす労働者には健康診断の実施が義務付けられています3)。企業の判断で、すべての従業員を対象に実施することもできます。
Q5. 英語対応は可能ですか?
医療機関によって異なります。英語対応が可能な医療機関も増えています。外国人従業員が多い企業の場合は、事前に英語対応の可否を確認しましょう。問診票の英語版を用意している医療機関もあります。
Q6. 申し込みはいつまでにすればよいですか?
繁忙期(4〜6月、9〜11月)の実施を希望する場合は、2〜3カ月前までの申し込みをお勧めします。希望日程が決まっている場合は、なるべくお早めにご相談ください。閑散期であれば、1カ月前でも対応可能な場合があります。
Q7. 申し込み後のキャンセルは可能ですか?
キャンセルポリシーは医療機関によって異なります。一般的には実施日の一定期間前までは無料でキャンセル可能ですが、直前のキャンセルではキャンセル料が発生する場合があります。詳細は申し込み時に確認しましょう。
まとめ:巡回健診で従業員の健康管理を効率化
巡回健診は、受診率の向上と業務効率化を両立できる、企業にとって理想的な健康診断の実施方法です。
巡回健診の主なメリット
巡回健診には以下のようなメリットがあります
- 職場で受診できるため、受診率が大幅に向上
- 1人当たり30〜40分で完了し、業務への影響が少なく便利
- 個別予約の手間が不要で、担当者の負担を軽減
- 受診状況を一元管理でき、未受診者フォローが容易
- 法定項目から追加検査まで、幅広い検査項目に対応
実施の流れは、問い合わせ→打ち合わせ→準備→健診当日→結果受領という明確なステップで進み、医療機関のサポートを受けながらスムーズに実施できます。全体の流れを理解しておけば、初めての導入でも安心です。
「従業員の健康診断をもっと効率的に実施したい」「受診率を高めたい」とお考えの健診担当者の方は、ぜひ巡回健診の導入をご検討ください。従業員の健康管理体制の強化は、企業の生産性向上にもつながる重要な投資です。
関連リンク
参考文献
1)厚生労働省「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000103900.pdf
2)厚生労働省「労働安全衛生法に基づく定期健康診断」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000194701.pdf
3)厚生労働省「労働安全衛生法に基づく 健康診断を実施しましょう ~労働者の健康確保のために~」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000103900.pdf
監修
桜十字グループ予防医療事業本部 VIP専任シニアマネージャー 石﨑竜太郎
執筆
メディカルトリビューン編集部